「57歳で婚活したらすごかった」世にも奇妙な婚活体験記【石神賢介】
『57歳で婚活したらすごかった』著者・石神賢介のリアル婚活リポート 第1回
しかし、美人局ではなかった。部屋に入りすぐに全裸になった彼女は、ベッドに横になるとすぐに寝息をたて始めたのだ。寝息はやがて、アザラシの叫びのようないびきになり、ときどき歯ぎしりも重なった。
そのすさまじさに僕はまったく眠れず、天井を眺めたまま朝を迎えた。ワカバヤシさんからの電話には「ご心配をおかけしました」と謝った。
仰向けのサナエさんの巨大な胸は引力に逆らって真上を向き、いびきに合わせて上下している。
全身を自分の好みにつくり変えるのにいくらかかったのだろう。好奇心を抑えられず、人差し指で彼女の胸を突いてみる。強い反発力で僕の指は押し返された。
翌朝は晴天――。初めて昼間の光の中で見るサナエさんの姿は、かなりパンチがあった。形状のはっきりした顔も、巨大な胸も、派手なワンピースも、太陽に当たると、夜よりもはるかに目立つ。
正午にチェックアウトし、ランチをとるために街に出ると、サナエさんはやはり腕をからめてきた。すれ違う人の目がどうしても気になる。僕とはバランスが悪すぎる。
どうか知り合いに会いませんように――と、ただただ願った。
自分に向いた婚活を選ぼう
久しぶりに婚活パーティーに参加して再認識したことがあった。
婚活のメインストリーム、つまり婚活アプリ、結婚相談所、婚活パーティーの三つのなかで、僕に関しては婚活パーティーが向いている。それは〝ライヴ〟だからだ。ある程度ハンディをカバーできる。
57歳で、バツイチで、フリーランスの記者は、婚活市場では概ね不利だ。ジジイで、失敗経験者で、経済的に不安定。三重苦を抱えている。
婚活アプリと結婚相談所は、プロフィールからスタートする。容姿のいい、いわゆるイケメンで、年収2000万円以上で、年齢が20代から30代前半あたりならば、プロフィールの時点で有利な立場で女性にアプローチできるだろう。
しかし僕の場合、その第一歩のプロフィールにハンディが明記されている。その時点で女性にはじかれる可能性が高く、リングに上がることなく、敗北する。
一方、婚活パーティーは最初から対面だ。リング上から始まる。男女ともプロフィールにある記述よりも、自分の目で見て会話した第一印象で相手を判断するだろう。57歳という年齢も、ある程度カバーできる。静止した写真ではジジイでも、声を発し、表情が変化し、身振り手振りがあると、実年齢よりもいきいきとして見える。
職業的なアドバンテージも感じた。フリーランスの記者なので、取材で日常的に初対面の相手と会話をしている。だから、婚活パーティーでもひるまない。営業職をはじめプレゼンテーションの機会が多い職種の人も有利だと思う。相手の話を〝聞く〟ことにも長けているので、タイミングよくあいづちを打ち、的確に質問できる。
実際に青山の婚活パーティーでは、サナエさんを含めて3人から交際のリクエストをもらえた。10人のうち3人、野球にたとえれば、一流のあかしの3割バッターだ。この時点で、婚活アプリでは5人にアプローチしてマッチングは1人、結婚相談所では20人にお見合いを申し込んで会えたのは1人。苦しいスタートだった。だから、なおさら婚活パーティーにアドバンテージを感じた。
では、婚活アプリや結婚相談所のほうが向いているのはどんな人だろう――。
まず、たとえばコンピュータ関係や研究者など人と接する機会が少ない仕事に就いているケースだと思う。コミュニケーション能力に自信がなくても、プロフィールの閲覧から始まる婚活アプリや結婚相談所ならばカバーできる。
メールのやり取りが多い仕事ならば、婚活アプリを通してメッセージを何度も交換して、心の距離を十分に近づけてから会えばいい。
高収入の男性はどんな婚活ツールでも有利だが、婚活アプリや結婚相談所では特にインパクトは強い。女性は男性に経済力を強く求めているからだ。
ただし女性側は、高収入、イケメン、高学歴、婚歴なしの男性は、慎重に検討したほうがいい。そんな好条件の男性がシングルで残っている可能性は高くない。〝優良物件〟は周囲の女性が放っておかない。背景には、借金、ギャンブル、DV、変態……など、何かしらリスク要因があるかもしれない。
婚活は、時間とコストをかけられるならば、機会は多いほうがいい。結婚相談所も婚活パーティーも、全部やるべきだ。どこにチャンスがあるかわからない。
でも、どれか一つから始めるならば、自分に合うツール、アドバンテージを感じるツールを選びたい。
※石神賢介著『57歳で婚活したらすごかった』(新潮新書)から本文一部抜粋して構成
(第2回へつづく)